2016年4月17日日曜日

ナンピンを使わない理由と使う理由

Image courtesy of Serge Bertasius Photography at FreeDigitalPhotos.net

ナンピンとは

ナンピン(難平)は自分のポジションが損失となる方向に相場が動いた時にポジションを増すことを言います。
ナンピンはよく危険だと言われます。私も無計画に使うことはしないようにしています。しかし私は逆に危険を小さくするために使うこともあります。
この記事ではナンピンを私が使わない理由・使う理由をまとめます。
(あくまで理由であり、ナンピンを使った方が・使わない方が儲かる、という主張ではありません。)

ナンピンを使わない理由

現在のポジションから最終的にどれだけ逆方向に動くのか読めない時はナンピンを使いません。
ナンピンでポジションを増すと、それだけリスクは高まります。
最終的にどこまで逆方向に動くのか分からないままリスクを高めると、損切りラインも定まらず最終損失が際限無く大きくなる可能性があるため危険です。
というのはいろいろなサイトで書かれていると思いますので、使わない理由は以上に留めます。

ナンピンを使う理由

私は、逆説的ですがリスクを小さくしたい時にナンピンを使います。
それは、最初から一括で想定した全てのポジションを持たないことで、損切りになった時の最終損失額を小さくするためです。
使う場面は、使わない場面と逆で、逆方向への動きは限定的で最終的には自分の読む方向に相場が行き着くと判断した時です。
しかしもう1つ条件があります。
一時的にはどれだけ逆方向に動くのか分からないことです。
なぜなら一時的に動く幅も分かっているなら、そのタイミングで一括でポジションを取れば良く、ナンピンは不要だからです。
ナンピンをする時は、一時的にはどれだけ逆方向に動くのかわからないため、最初は小さなポジション、例えば想定した額の半分のポジションを取ります。
ポジションを0にしない理由は、全く逆行しないまま読んだ方向に大きく動く可能性があるからです。(ポジションを取らなかったらそれがそのまま機会損失になります。)
想定したラインまで相場が逆行した場合は、そこで想定の全額までポジションを追加します。
こうすれば、読みが外れて損切りの決断をする時、一括でポジションを取った場合よりも損失額を小さくできます。
これがリスクを小さくしたい時、という意味です。

以下、実際に私が今計画しているナンピンを具体例として示します。

ナンピン例1: ドル円ショート

私は2月下旬のG20以降、ドル円は今後数年間というスパンでは"最終的に"110円より下のラインで落ち着くという相場観を持っています。
その理由は以下の2点。

  • ドル高がアメリカの製造業と中国を始めとする新興国を苦しめ、市場の混乱とディスインフレが利上げの妨げになること、そしてそれをアメリカ当局が実際に示していること
  • 現在の有力なアメリカ次期大統領候補がドル高円安に批判的で、どう転んでもこれ以上のドル高円安が容認される状況ではなくなっていること
しかし"一時的に"どこまで円安になるのかは読めていません。
最近積み上がったヘッジファンドのドル円ショートポジションの巻き戻しや、年金と同じポートフォリオに変更を進めている共済など"鯨"によるドル買い、そして日銀の追加緩和、政府による財政出動によって一時的な株高・円安の可能性が想定されます。
したがって、最終的に持ちたいドル円ショートポジションを全額投じるのではなく、今はまだ3分の1ほどに抑えています。
残りは113~114.5円、117~118円まで戻ったところでドル円ショートのポジションを増していくプランです。

次に、損切りするケースを想定します。
私が損切りするのは上記の相場観が崩れる場合です。
2パターン想定しています。

  • 新興国の回復とアメリカ経済が想定以上に強く、アメリカが再びドル高(と日本の円安政策)を許容するようになる場合
  • 何らかの需給変化によって資源・エネルギー価格の上昇が極端に強まり、インフレ率の高まりからアメリカが利上げを加速させざるを得なくなる場合
これが現実のものになると自分が判断した場合、私はドル円ショートのポジションを損切りします。
この時の損切り額は、たとえば分かりやすく100万円分のドル円ショートを想定額とするとそれぞれ以下のようになります。
  • 112.5円で一括でショートしていた場合: 120円で損切りすると7.5万円の損失
  • 112.5、114.5、118円で等しくショートしていた場合: 120円で損切りすると5万円の損失
後者は損失額を3分の2にできています。
つまりナンピンによってドル円ショートのリスクを小さくしていることになります。
もちろんだからと言ってナンピンをするのが「正解」というわけではなく、もっと円高に対して強気で、大きく円安に戻すことなくどんどん円高になる可能性の方が高い、と読む人は一括で大きくポジションを持った方が期待値を高くできるでしょう。
実際、本記事を書いている時点でもルー国務長官の発言によりドル安円高方向に加速する可能性が高まっています。
その場合はナンピンは機会損失であり、一括でドル円ショートを投入していた方が儲かる、ということになります。

話は逸れますが、自分は損切り額をさらに小さくするために資源と貴金属のポジションをドルに対してロングしています。
なぜなら今後数年間は資源と貴金属の価格が対ドルで回復すると考えているとともに、損切りパターン2のケースになった場合、資源・貴金属ロングによる利益が損切り額を打ち消してくれるためです。

ナンピン例2: 原油ショート

私は、原油は今後数年間、最終的に40~50ドル以下の価格に落ち着くという相場観を持っています。
なぜならアメリカのシェールオイル企業の生存力が高い上、機動的にリグの停止・稼働を切り替えられるようになったことで供給の価格弾力性が飛躍的に高まったためです。
しかし一時的には何らかの突発的な供給の逼迫や投機的な値動きで60ドルを超えてくる可能性も想定しています。
損切りするのは、供給の価格弾力性が想定よりも小さい、もしくは想定外にシェールオイル企業が弱く破綻が連鎖するなどして原油価格が高止まりすると判断した場合です。
考え方はナンピン例1と同じですね。
少し脱線ですが、在庫過剰が続いていることから原油保管費用が高まり、コンタンゴになっている(先物やCFDを売っていれば限月をまたぐ毎に利益が得られる状態)のもショートが有利だと考える理由です。

ナンピン例3: 株価指数連動投資信託の買い

私は世界の株価指数の平均が、今後数十年間上昇を続けるという相場観を持っています。
なぜなら世界経済は一時的に減速はしても長期ではプラス成長をずっと続けているからです。
また、テクノロジーの進歩は止まらない、むしろ人工知能によって加速すると考えており、生産性の向上は今後も続くと考えます。
しかし一時的には金融危機や需要低迷・景気後退によって最悪リーマン・ショック時の安値を更新する可能性も想定しています。
損切りするケースは、気候変動・環境破壊が想定より深刻だったり、数万年周期の大災害が起こったりするなどして世界人口や生産性が長期で減少に転じたり、資本主義が崩壊したり、何か根本から株式投資の優位性が消失してしまった時です。
以上の理由で、今までのナンピン例と同じく今はまだ想定の全額を株価指数には投資せず、直近ではリーマン・ショック時の安値を基準に段階的にナンピンし、株式投資比率を高めていく予定です。

まとめ

本記事ではナンピンを使わない理由と使う理由を書きました。
使う理由について詳しく書いたため、もしかしたらナンピンこそが優れた手法だという印象を与えたかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。
モメンタムが十分に強いと判断したら一括で投じるべきですし、最終的な逆行幅が読めない時はナンピンを禁じてピラミッディングのみに集中するべきでしょう。
要するに、自分の相場観では何が読めて何が読めないのかを認識した上でこれらの戦略を使い分けることが大事だというのが私の考えです。
ナンピンは危険だからダメだ・ピラミッディングが常に優れている、などの安易な判断は戦略の幅を狭め、機会損失になると私は考えます。